2015年11月18日水曜日

原著と英語訳と日本語訳

基本的に《望林堂完訳文庫》では、英語作品を日本語訳してお届けしています。でも既刊書の中には、

「アルプスの少女ハイジ」(スイス文学、ドイツ語)
「ピノッキオの冒険」(イタリア文学、イタリア語)
「みつばちマーヤの冒険」(ドイツ文学、ドイツ語)
「青い鳥」(ベルギー文学、フランス語)

など、原著が英語ではない作品も含まれています。どうしてそのようなことが可能なのでしょう? それは、原著の英訳完訳書を見つけて、それを日本語に訳しているからなのです。

ところが、英訳書の場合、完訳かどうかはっきり明記されていない場合がほとんどです。完訳だと思って訳していると、実は抄訳だったりするのです。

そこで、分量的に完訳と思われる英訳書を見つけても、さらに原著のテキストを自動翻訳で英語にして、抜けているところがないかチェックしつつ作業を進めることにしています。時間はかかりますが、〝完訳文庫〟と名乗る上ではこだわりたい部分だからです。

また、こうした内容とは別の点で、〝完訳〟とは言えない部分も出てきます。英訳が違う意味になる場合もありますし、説明を書き足している場合もあります。

中でも意外と多いのが、名前の変更です。オリジナルの単語をそのまま載せても、読者がその発音がわからない(英語にない発音や表記)とか、発音しづらく親しみがわきづらいという〝配慮〟からでしょうか、名前がオリジナルとは別の英語名に変えられている場合が少なくないのです。

例えば「みつばちマーヤの冒険」では、登場人物の名前が次のように変わっていました。

 独語名   / 英語名   (虫の種類)
 ペッピー  / ピーター  (フキコガネムシ)
 シュヌック / ラヴィディア(トンボ)
 クルト   / ボビー   (フンコロガシ)
 フリッツ  / フレッド  (チョウ)
 ヒエロニモス/ トーマス  (ムカデ)

これも、原著と英語訳とを照らし合わせて作業しながら、一つ一つオリジナルの名前を確認し、その発音に近いカタカナ表記を使って日本語に訳してあります。

こうしてできるだけオリジナルの名前にこだわるのは、地名や人名は、読んでいて〝異国〟が感じられる大事な部分だからです。そこに込められた、ドイツらしさやイタリアらしさは、作品のとても大きな魅力の一つだと思うからです。

そういう意味では、オリジナルを〝完訳〟したと言われる英訳書の完訳邦訳ではありませんが、その〝完訳〟英訳書に比べて、よりオリジナルに近い完訳邦訳だと思っております。

ただし、例えば「青い鳥」に出てくる仙女Béryluneは、これまで〝ベリリウンヌ〟(フランス語読み〝ベリリュネ〟とも、英語読み〝ベリリュン〟とも違う)と訳されて親しまれてきているようなので、それにのっとりました。こうした部分をどう判断するかは難しいところです。でもやっぱりHeidiは〝ハイディ〟ではなく、〝ハイジ〟ですものね!



「青い鳥」の挿絵