2016年1月24日日曜日

「ジキル博士とハイド氏」の二つの文体

「ジキル博士とハイド氏」(1886年)は、それほど長い小説ではありませんが、その構成が少し変わっています。

前半部分は弁護士アターソンを中心とした、三人称形式による物語です。怪しげな霧の都ロンドンを舞台に、謎の人物ハイド氏、アターソンの散歩仲間のエンフィールド、友人のラニョン医師やジキル博士などが登場します。

そしてまわりで奇妙な事件が続き、アターソンは次第に不気味な事件に引き込まれてゆくのです。

そして中盤過ぎからいよいよ謎解きが始まりますが、それはラニョン医師の手紙とジキル博士の手記という、二人称形式の独白文となるのです。どちらもアターソンに宛てた個人的なものです。

そこで今回、邦訳文も前半と後半で変えることにしました。事件を物語る前半部分の地の文は「です・ます調」で進みます。でも後半の手紙部分は「だ・である調」になります。

手紙や手記は古くからの友人に宛てたものなので、「です・ます調」のあらたまった感じが合わないと思ったからです。さらにそこで明かされる異様な真実の描写や説明も、論文的とも言える「だ・である調」の冷静な文体が合っていると考えました。
こうして文体が変わることで、一気にその暗く怪しい真相に引き込まれていただけると嬉しいです。
  
ちなみにこうした文体の混交は、すでに「吸血鬼カーミラ」で試みています。基本的にはある女性の告白/体験記なので「です・ます調」ですが、その中で語られる将軍(男性)の告白は「だ・である調」です。
  
翻訳は現在、まさにその暗く怪しい真相が丁寧に描写されるクライマックス部分に差し掛かっています。抽象的な表現が多くなり一文&一段落の分量が増えて訳すのに時間がかかるようになり翻訳ペースが落ちていますが、少しでもわかりやすい訳になるようにと格闘中です。


完成まで今しばらくかかりそうですが、楽しみにお待ちくださいませ。