ジェームズ・マシュー・バリーによって生み出されたピーター・パンは「小さい白い鳥」(1902)に初登場します。さらに「ケンジントン公園のピーター・パン」(1906)が出版されます。しかし現在広く知られているネヴァーランドを舞台にした物語は、その後に「ピーターとウェンディ」(1911)として発表されたものです。
望林堂完訳文庫ではすでに「ケンジントン公園のピーター・パン」を出版していますが、次回配本予定の邦訳書は、この1911年の作品の全訳となります。ただしタイトルはよりわかりやすく「ピーター・パンとウェンディ」に変えました。
その「ピーターとウェンディ」のもととなっているのは、発表される7年も前の1904年に舞台化された際の戯曲です。つまり「ピーターとウェンディ」は、小説が出る前から、かなり舞台でのイメージができあがっていたことになります。
それが挿絵にも影響しているのです。
まず1911年の初版本の挿絵がこちらです。F.D.ベッドフォードによるモノクロのものです。インディアン(北米先住民)の描き方に偏見が感じられますが、逆にそこから、この物語を含め、当時はそういう偏見に満ちた時代だったとことがわかるとも言えます。
こちらは「The Story of Peter Pan」(1915)という本で、オリジナルの物語をリトールド(子ども向けに短くやさしく書き直す)されています。挿絵はアリス B.ウッドワード。ピーター・パンは赤い服を着て茶色いタイツを履いていますね。
こちらは同じリトールド版(1921)に、マーベル・ルーシ-・アトウェルが挿絵をつけたもの。ピーター・パンは全身真っ白な服で、タッチが全体によりメルヘンチックになっています。また初版から10年経ち、インディアンの描写も大きく変わっていますね。
何よりピーター・パンの服装が、まるで舞台から抜け出したかのような奇抜なものになっているのです。足にはバレーシューズか小学校の上履きのようなものを履いていますし、頭には羽飾りのようなものをつけていますね。そしてピーターがいわゆる〝カメラ目線〟です。
でも原文では
「男の子はとてもかわいらしく、筋だけの葉っぱと樹液で作った服を着ていました。」
と書いてあるだけなのです。
原文に忠実なのは、やはり初版本の挿絵であることは間違いないでしょう。そこで望林堂完訳文庫の「ピーター・パンとウェンディ」の挿絵も、初版本のものを使う予定です。13点すべてを入れたいと思います。