2017年3月12日日曜日

児童文学と孤児の主人公

19世紀から20世紀初頭にかけての欧米の児童文学において、〝孤児〟が主人公になる作品が数多く出版されます。

主なものを、出版年、出版国、作品名という順で上げてみました。印は《望林堂完訳文庫》既刊作品)

1872 イギリス「フランダースの犬」
1878 フランス「家なき子」

1878 アメリカ「トム・ソーヤーの冒険」
1881 スイス 「アルプスの少女ハイジ」
1885 アメリカ「ハックルベリー・フィンの冒険」
1886 アメリカ「小公子」
1900 アメリカ「オズの魔法使い」

1905 アメリカ「小公女」(親と離別) 
1908 カナダ 「赤毛のアン」
1911 イギリス「秘密の花園」
1912 アメリカ「あしながおじさん」

1913 アメリカ「ポリアンナ」
1917 アメリカ「リンゴの丘のベッツィー」
  
親がいないという境遇にいる主人公は、試練をみずから引き受け、考え、行動しなければなりません。そのため、主人公の葛藤や発見や成長が描きやすい、可哀想という思いから読者共感を引き出しやす、などのメリットがあるのでしょう

またアメリカの作品が多いのは、アメリカという国がイギリスから独立した新しい国で、そういう意味ではヨーロッパの文化的な歴史と決別した、不安定さと自由さをあわせ持つ国であるということもあるかもしれません。実際、アメリカは〝孤児〟に例えられることが多いそうです

「リンゴの丘のベッツィー」のエリザベス・アン(ベッツィー)は、後発な作品だけあって、逆境に立ち向かう主人公という設定とは大分違います。ベッツィーは赤ちゃんの頃から、おばさんと大おばさんのもとで大切に育てられるのです。 引き取られることになる家族も優しい人ばかりです。
  
そんな中で、 子どもにとって大切なことは何か、成長してゆく上で、支えとなるものは何かが問いかけられます。より繊細な問題に切り込んでいると言えそうです。

でも、何よりも 素直でシャイなベッツィーが魅力的なのです。アン・シャーリーやポリアンナのように、悲惨な境遇から身を守るすべを持たないか弱いベッツィーが、少しずつ世界を広げてゆく様子が、実に微笑ましくも感動的なのです。
  
「リンゴの丘のベッツィー」は、思った以上に密度の濃い文体なこともあって、只今翻訳奮闘中です。出版までは、今しばらくお待ち下さいませ。
  
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