2015年11月24日火曜日

Kindle Previewerの不具合

今年10月末にMac OSが〝El Capitan(エル・キャピタン)〟と呼ばれる最新版にアップデードされました。OS X 10.11.1になります。その結果、Kindle Previewer(キンドル・プレビューア)というソフトが動かなくなってしまったのです。

このKindle Previewerというソフトは、epub(イーパブ)と呼ばれる一般的なデジタルブック形式をmobi(モビ)と呼ばれる、Kindle独自のファイル形式に変換し、同時にKindle上できちんと表示されるかの確認ができるというもので、Kindle書籍を作成・販売する上で、なくてはならないものです。

この夏にMac OSが10.10.5に自動アップデートされた時も、当初Kindle Previewerはうまく動きませんでした。しかしKindle Previewer v.2.94という対応版が配布され、無事動作するようになったのです。

ところがEl Capitanでは、このv.2.94も立ち上がりもしません。Kindle ダイレクト・パブリッシングに問い合わせたところ、「動く可能性がある方法」としていくつか提示していただいたのですが、それらを試してもやはりKindle Previewerは一向動く気配がありません。

そのため、新刊本の販売のみならず、例えば既刊本の校正ミスや翻訳ミスのご指摘をいただいた場合も、改訂版を出すことができない状況です。

誠に心苦しいのですが、Kindle Previewerの不具合が解決されるまで、今しばらくお待ちいただければと思っております。


なお翻訳作業は着々と進んでおります。環境が整い次第、可能なものから新刊本、改定本を出せるように、しっかりと準備しておきたいと思っております。

誠に申し訳ございませんが、ご理解のほど、よろしくお願い致します。

[追記]起動するようになりました! 設定方法はこちら

「ジャングルブック」より


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2015年11月18日水曜日

原著と英語訳と日本語訳

基本的に《望林堂完訳文庫》では、英語作品を日本語訳してお届けしています。でも既刊書の中には、

「アルプスの少女ハイジ」(スイス文学、ドイツ語)
「ピノッキオの冒険」(イタリア文学、イタリア語)
「みつばちマーヤの冒険」(ドイツ文学、ドイツ語)
「青い鳥」(ベルギー文学、フランス語)

など、原著が英語ではない作品も含まれています。どうしてそのようなことが可能なのでしょう? それは、原著の英訳完訳書を見つけて、それを日本語に訳しているからなのです。

ところが、英訳書の場合、完訳かどうかはっきり明記されていない場合がほとんどです。完訳だと思って訳していると、実は抄訳だったりするのです。

そこで、分量的に完訳と思われる英訳書を見つけても、さらに原著のテキストを自動翻訳で英語にして、抜けているところがないかチェックしつつ作業を進めることにしています。時間はかかりますが、〝完訳文庫〟と名乗る上ではこだわりたい部分だからです。

また、こうした内容とは別の点で、〝完訳〟とは言えない部分も出てきます。英訳が違う意味になる場合もありますし、説明を書き足している場合もあります。

中でも意外と多いのが、名前の変更です。オリジナルの単語をそのまま載せても、読者がその発音がわからない(英語にない発音や表記)とか、発音しづらく親しみがわきづらいという〝配慮〟からでしょうか、名前がオリジナルとは別の英語名に変えられている場合が少なくないのです。

例えば「みつばちマーヤの冒険」では、登場人物の名前が次のように変わっていました。

 独語名   / 英語名   (虫の種類)
 ペッピー  / ピーター  (フキコガネムシ)
 シュヌック / ラヴィディア(トンボ)
 クルト   / ボビー   (フンコロガシ)
 フリッツ  / フレッド  (チョウ)
 ヒエロニモス/ トーマス  (ムカデ)

これも、原著と英語訳とを照らし合わせて作業しながら、一つ一つオリジナルの名前を確認し、その発音に近いカタカナ表記を使って日本語に訳してあります。

こうしてできるだけオリジナルの名前にこだわるのは、地名や人名は、読んでいて〝異国〟が感じられる大事な部分だからです。そこに込められた、ドイツらしさやイタリアらしさは、作品のとても大きな魅力の一つだと思うからです。

そういう意味では、オリジナルを〝完訳〟したと言われる英訳書の完訳邦訳ではありませんが、その〝完訳〟英訳書に比べて、よりオリジナルに近い完訳邦訳だと思っております。

ただし、例えば「青い鳥」に出てくる仙女Béryluneは、これまで〝ベリリウンヌ〟(フランス語読み〝ベリリュネ〟とも、英語読み〝ベリリュン〟とも違う)と訳されて親しまれてきているようなので、それにのっとりました。こうした部分をどう判断するかは難しいところです。でもやっぱりHeidiは〝ハイディ〟ではなく、〝ハイジ〟ですものね!



「青い鳥」の挿絵
 
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2015年11月13日金曜日

ばい菌はバイキング!

「砂の妖精サミアド」は原題が「Five Children and It(五人の子どもたちとそれ)」であるように、五人の子どもたち(主に、赤ちゃんを除いた四人の子どもたち)が次々と騒動を巻き起こす物語です。

すでに触れたように、その年齢は作品中では触れられていないのでわからないのですが、子どもたちの会話に出てくる、大人なぶろうとする部分と子どもらしい幼い部分が、大きな魅力であることは確かです。でも、だからこそ翻訳に苦労することも出てきます。

例えば手紙。アンシアが書く文章は、ちょっと気取っていて、でも回りくどく、さらに単語の綴りが間違っています。それをわざわざ英語の単語を示して綴りの違いを説明したら、きっと文章の流れが途切れて興ざめです。

そこで日本語を、わざと間違えることにしてあります。「おいしそう」とか「心から感謝している」という具合です。校正ミスではないことを示すためにヽを打ってあります。



さらに単語の言い間違いも訳すのが大変です。次の文章はgerms(ばい菌)をGermans(ドイツ人)と聞き間違えて覚えていたシリルと、その単語を初めて聞いたアンシアの会話です。

「……この間お父さんが言っていたのを聞いたんだ、人は雨水に含まれているバイキングヽヽヽヽヽで病気になるんだって。ここにはたくさん雨水があったはずさ……雨水がすっかり乾いても、バイキングは残っているから、食べ物の中に入ってしまう。するとぼくらはみんなしょうこう熱にかかって死んじゃうんだよ」
「バイキングって何?」
「顕微鏡で見るとクネクネ動いている小さいやつのことさ」学者のような口ぶりで、シリルが言いました。

アンシアが質問しているように、二人ともGermanがドイツ人という意味になることも知らないで話しています(ですから本来ならGermanですが、小文字でgermanと書かれています)。そうすると「ばい菌」を「ドイツ人」と訳しておいて、注釈をつけたのではおかしなことになってしまいます。さすがに二人も「ドイツ人」は知っているでしょうから、「……ドイツ人で病気になるんだって。……」「ドイツ人て何?」という会話は
変ですものね?


そこで、単に単語を間違えているだけでなく、間違えた単語が別の意味を持っているということを活かしたいために、あえて「ばい菌」を「バイキング」としてみました。


ここは偉そうに難しい単語を使って説明しながら、実は大間違いしている、ちょっと大人ぶったシリルの面白さを伝えたい場面なのです。そのことを優先して、上記のような訳を考えてみたわけです。


ただし、原文中に「バイキング(Viking)」などという言葉は存在しないので、これは一つの冒険です。


まだ翻訳途中なので、最終的に別のかたちに落ち着くかもしれませんが、こうした苦労をしつつ、現在も翻訳作業を続けております。