「星の帆船」の原文は、思った以上になかなか手ごわいものです。イラストに重きを置き、文章もイラスト的な要素が強いために、くどくど説明するのは避けている上に、時々詩的な表現、しゃれた言い回し、なども出てくるからです。
例えば、この「船(ship)」という話の最後の部分。火星へゆく帆船の模型をいくつも試作しているうちに、ついに飛び上がる模型を作るのに成功した場面です。
In the forgetfulness of their elation, the Faries nearly lost a valued member of their community, whose attention to duty was greater than his total weight.
(原文)
立風書房では、この部分が次のように訳されています。
待ちに待った指令にすっかり我を忘れてしまった妖精の一人は、あやうくその任務の重みで自分をおしつぶして命をおとすところでした。
(立風書房)
確かに「任務の重みに押しつぶされる」と訳したくなりそうですが、でも「自分の体重」というあたりの解釈がうまくゆきません。それに、添えられたイラストの意味が分からないのです。そこに描かれているのは、模型に引っ張られるように宙に浮いて、今にも飛んでいってしまいそうな一人の妖精。そこではたと気づきました。これは次のような意味ではないかと。
大喜びのあまり誰もがほとんど忘れてしまったのですが、実は妖精たちは、危うく大事な仲間の一人を失うところだったのです。その妖精は、自分の体重よりも任務に忠実であったため、からだが浮いても模型から手を離さなかったからです。
(望林堂)
最後の部分は、「自分の体重よりも任務に忠実であった」という部分を、もう一度かみ砕いて言い直した、いわば〝解説〟です。
こうした分かりづらい部分を一つずつクリアしつつ、「星の帆船」は完成に近づきつつあります。
翻訳完成・販売まで、今少しお待ちくださいませ。