本日、「みつばちマーヤの冒険」の邦訳第一稿ができあがりました。このお話もとても良くできたお話で、一日も早くきちんとしたかたちでお届けしたいと、あらためて思いました。
以前「ジャングル・ブック」の『白アザラシ』は誤訳で、実は『白オットセイ』だったというお話をしましたが、「みつばちマーヤの冒険」でも、同じような大きな誤解が残されています。
それは、マーヤたちミツバチの敵が〝クマバチ(クマンバチ)〟だ、というものです。そもそも花粉や蜜を食べるクマバチが、ミツバチを襲うことは考えられないのですが、なぜかマーヤたちミツバチの最大の敵が〝クマバチ〟にされてしまったのです。
ところが原作ではちゃんとhornisse(英語でhornet)とあり、〝スズメバチ〟なのです。これは日本語化される際の誤訳です。
そもそもクマバチは日本固有種なので、ドイツ人のボンゼルスの頭にクマバチがあったとは思えません。実際、文中でもスズメバチの特徴である「黒と黄色の縞模様の体」という表現が何回も出てきますし、現実にもミツバチの大敵はスズメバチです。
日本では〝クマンバチ〟という言葉がスズメバチを含む大型なハチ全般を指す場合があるそうなので、混同されてしまったのかもしれません。あるいは同じ大型なハチとして「スズメ」よりも「クマ」の方がより凶悪そうに聞こえて、敵としてふさわしいと短絡的に考えられた結果かもしれません。
でもいまだに様々な場所で、「みつばちマーヤの冒険」でマーヤたちミツバチが最後に戦った相手が〝クマバチ〟だと書かれているのを見ると、それだけでも本書を出す意味があるように思われるのです。
もちろんそのほかにも、この物語は魅力がいっぱいです。それは自然界や虫の世界をかなりリアルに見つめつつ、人間味溢れるやり取りやしぐさが描かれるという、絶妙なスタンスがうまく活かされているからでしょう。
さらに、スズメバチも「敵」ではあっても「悪」ではないという、作者の視点がきちんと描かれている点も大きな魅力です。この客観的な視点こそが、この物語にドライな感覚を与え、情に流されない奥の深さにつながっているのだと思うのです。
出版開始のあかつきには、ぜひ多くの方にお読みいただけると嬉しいですね。
マーヤ(手前)と敵のスズメバチ
挿絵のリアル/擬人化のバランスも絶妙です!