H.G. ウェルズが「宇宙戦争」を発表したのは、19世紀末の1889年ですが、これは初めて単行本化された年のことです。執筆自体は1885年に開始され、その後雑誌連載を経て、単行本化されたのです。
執筆の直接的な引き金になったのは、散歩している時に一緒にいた兄のフランクが何気なく口にした宇宙から生物が飛来する話だったそうです。ただ、本文中にも出てきますが、前年の1894年に、科学紙『ネイチャー』に「火星に怪光」という記事が載り、そのことがすでにウエルズの想像力を大いに掻き立てていたようです。
しかし実際に始めてみると執筆は思うように進まず、二度の中断をはさんで1897年まで続きます。その間に、あとから書き始めた「透明人間」の方が、先に世に出てしまったほどでした。
1897年、「宇宙戦争」は初めて世に出ます。4月からイギリスとアメリカで雑誌連載が開始されたのです。そしてその年の12月に見事完結し、翌1897年に単行本化されます。執筆開始から2年以上が経っていました。
この単行本化に際し、雑誌連載内容に大幅な加筆が行われて全22章から大幅にボリュームアップし、第一部17章、第二部9章の、全26章になりました。この時にはまだ最終章「エピローグ」がありませんでした。
その後最終章が加わり全27章となり、1924年に著作集(通称アトランティック版)が刊行されますが、この際に細かな改定がなされ、これが決定版として今に至っています。
つまり「宇宙戦争」は、執筆開始から納得の行く完成を見るまで、何と39年もかかっているのです。作品が放つ異様なパワーは、そんなウェルズの執念のあらわれかもしれませんね。
さて次に刊行予定の「宇宙戦争」の翻訳第1稿が完成です。
100点を越える挿絵も、図版データ化が終わりました。
6月中の刊行を目指してがんばりますので、今しばらくお待ちください。