一ヶ月とか二ヶ月とか苦労を重ねて、ようやく一冊の翻訳書を仕上げると、ちょっと心身ともに疲れ果てた状態になります。でもそこでゆっくりと次回作を探すのが、また楽しいのです。
どうやって決めるかというと、まずパブリック・ドメインになっている作品であるということが大前提です。それなら著作権を気にせずに自由に翻訳作業にあたれるからです。
次に、児童文学であるという点にもこだわっています。とにかく子どもたちに面白いお話を読んでもらいたい。漫画やアニメとは違った、本を読む楽しさを知ってもらいたいと思うのです。
それから、あまり日の目を見ない作品に光を当てたいという思いもあります。Kindle本という世界はまだまだ書籍不足ですから、本当に有名な作品しか揃っていません。そこに過去の名作を少しずつでも揃えてあげたいのです。
もっと言えば、Kindle本に限らず紙の本を含めて、名作と言われながら翻訳書がすでに絶版になっていて、手に入りずらくなっているものも少なくありません。あるいは手に入ったとしても訳が古くて、大人でも読みづらいものもあります。そういう本を、きちんとリニューアルして、お店のショーウインドーの一番前に飾ってあげたいのです。
さらに完訳するということにもこだわっています。特に児童文学の場合、「ハイジ」のように、とても有名だけれども抄訳ばかりというケースが多いのです。中にはストーリーそのものを変えてしまうような場合もあるくらいです。例えば「ハイジ」では、宗教的な部分はごっそり抜けている邦訳が多く見受けられます。でもそれではダメだと思うのです。相手が子どもだからこそ、真剣にオリジナルをぶつけるべきです。
そこで問題になるのが、オリジナルデータが手に入りやすい作品かということです。基本的に英語からの翻訳を行っているので、原書が英語以外の場合、まずその英語版が完訳で手に入るかどうかが大事なのです。「ハイジ」(ドイツ語)や「ピノッキオ」(イタリア語)は、一応完訳と思われるものを選んだ上で、巻末に、扱った英書を記してあります。
というような、いくつかの条件やこだわりの中で、現在次回作となる「望林堂完訳文庫」第14弾を選定中です。今現在、候補作は三つあります。決まりましたらこの場でお知らせする予定ですので、お楽しみに!