2015年7月14日火曜日

会話内の改行について(「」の使い方)

《望林堂完訳文庫》の「吸血鬼カーミラ」に対して、次のようなコメントをいただきました。
  
  
カギ括弧の使い方がなんだかおかしい。うまく説明できないので例文を抜粋します。
 
 「それはまさに貴族の集まりだった。"無名の人"でそこにいたのは、わたしだけだった。
 「わたしの娘も実に美しかったよ(以下略)」
  
上記のようにカギ括弧の締めが抜けているうえに、同じ登場人物が続けて喋っているのになぜか改行して新しいカギ括弧が登場することがしばしば。致命的欠点ではないかもしれませんが、読書中に「えっ今誰が喋ってるんだ!?」と戸惑って集中できなかった。

  
ご存知の通り、このご指摘は誤りで、「同じ登場人物が続けて喋っているのに・・」ではなく、まさに「同じ登場人物が続けて喋っているから・・」こういう表記になります。

正しい日本語の記述法としては「会話文の中では改行しない」のですが、独白が長々と続いて改行せざるを得ない場合があり、そういう時には、改行前は「 」で閉じずに改行後の冒頭に 「 」をつけて同一話者による会話文内の改行であることを示すのです。

そしてこの「吸血鬼カーミラ」では、登場人物の将軍がとても長い独白をするので、こうした閉じ括弧だけがない改行が頻繁に現れることになります。ちなみに「なぜか改行して」とありますが、これは原文通りです。まるで一人称の作品のように会話文が一章まるまる続き、さらにそこで会話のやりとりまであるという、ちょっと特殊な文章なのです。

さてこの 」 の無い会話内改行表記ですが、読み進んだ時に、“係り結びが不完全”みたいなひっかかりがあると思います。それこそが、「まだ同じ話者が話していますよ」というサインになっているのです。でも、「」の中で普通に改行する表記方法も珍しくない現在、こうしたルールに慣れ親しんでいない読者も多いでしょうし、上記のコメントのように、集中できないほど読みづらいものに感じられる場合もあるでしょう。

しかしこうした記述法も一つの文化だと考え、《望林堂完訳文庫》では、会話内改行に関しては、旧来の記述方法に則りたいと思いますので、ご了解下さい。

ちなみに上記コメントはその後、評価と一緒にご訂正いただきました。ありがとうございました。

あわせてご指摘いただきました校正ミスに関しては、心よりお詫び申し上げます。


現在販売中のものはすでに訂正済みの改訂版です。

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